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PJ: 今藤 泰資

最近の中国(東北部)事情=(5=完)この国の行く先
2008年11月04日 07:04 JST


早朝の瀋陽市清昭陵(北稜)公園。面積は、327.4万?もある。(撮影:今藤泰資) 

(4)からのつづき。瀋陽市の中心に清昭陵(北稜)という公園がある。この街には瀋陽故宮など、いくつかの世界文化遺産があり、中でもこの公園は327.4万?もの広さだ。清の太宗ホンタイジと皇后ボルトジキトクの陵墓は1643 年に建てられ、隆恩殿、宝城、宝頂、月牙城、大明楼、大碑楼、方城、隆恩門、大紅門、石牌坊等建築があり、為政者の満州族と、官僚として仕切っていた漢族の建築特徴を融合したことが特徴。休日の早朝、ここを訪れたわたしは、太極拳をし、タコを揚げ、犬を散歩させ、ランニングをする多くの市民に瞠目(どうもく)させられた。中には零度近い園内の池で「寒中水泳」をする人までいたからだ。

 そこでは見事なコミュニティーが形成され、健康志向でスポーツ好きな瀋陽市民の姿があった。かほどに余裕があるのを意外と思うのは、この国には課題が多すぎるからである。複雑な二重構造社会といってもいい。30日付けの中国新聞の電子掲示板「中新社区」は、「食の諸問題では、罪も力もない農民は号泣するばかり」とする意見を掲載。「農民に同情し、政府を批判する書き込みが相次ぐ」と伝えた。毒物混入の粉ミルク。ウジ虫入りミカン。メラミン入りの鶏卵など、「事件の弱者は農民」との意見があったという。言論統制の壁を乗り超えるネットの強さは想像以上ながら、国民の安寧秩序が保たれなければ、国家とはいい難い。

 往復の大連周水子国際空港で、わたしは現代中国を端的に表現する得がたい経験をした。成田を飛び立った全日空機は、わずか3時間少々で大連に到着する。自宅のある茨城東部のわが家から、成田に行く時間とさほどの差はない。それほど近い国でありながら、国家体制の違いは大きかった。上空から眺めた大連港には、臨海工業地帯から白濁した水が流れ出していた。わたしは忘れかけた「あの事件」を思い出した。昭和31年5月、熊本県水俣市のチッソ附属病院長が「原因不明の中枢神経疾患発生」と報告。同年10月、熊本大学医学部がチッソの工場排水に疑いを持ったいわゆる「水俣病事件」である。もちろん機上からの観察である。汚濁した水の正体は不明だが、このような汚水の垂れ流しは、現在の日本国内で見いだすことは難しい。中国の環境対策は、50年前のわが国に等しい。

 2日に開かれた日中韓保健相会合に出席するため訪中した舛添厚生労働相は、「鳥インフルエンザの対策には、日中韓3国の協力が必要だ」と語った。また12月には、麻生太郎首相、李明博大統領、温家宝首相が参加する3カ国首脳会談が開催される予定だ。隣接する日中韓の政府首脳の交流は極めて好ましい。だが、大連中山広場のハトに注射を施していた獣医師の姿は、国際的防疫問題と重なって見える。マメでおびき寄せたハトに注射をしても、あれではどのハトか区別がつかない。大問題の処理の仕方が粗雑なのである。あるいは、首脳会議の中国代表として、英語表現ではPresident(大統領)とされる国家主席はなぜ出席しないのか。国際社会にあっては「古代の皇帝と同じように尊大」という意見もあるのだ。

 新興国中国が、農業と工業を優先する発想は間違ってはいない。立ち遅れた環境対策を揶揄(やゆ)したくはない。ただ、各種の規制にいたる道筋が不明確なことと、「人民生活優先」の思考回路になっていないのである。帰国に際し、わたしは大連空港の免税店で缶入りコーヒーを買い、別の店でわずかな土産を求めた。その時初めて観光ガイドの、「汚いお札は気をつけて」という言葉を思い出した。釣りに受け取ったしわくちゃの人民元は、ニセ札に間違われ、仔細(しさい)にチェックされた上、疑わしい目まで向けられた。不愉快ではあったが、納得もさせられた。戦乱の多かったこの国では、貨幣経済に対する信頼が希薄なのである。現在ブレーク中の映画「赤壁:レッド・クリフ」でも、戦火に次ぐ戦火と、疲弊する農民の姿が描かれている。貨幣より「金」を尊ぶのは、古代中国でも、現代中国でも変わりはないということだ。

 そう考えれば、「人民共和国」「人民解放軍」「人民銀行」「人民日報」から「人民元」にいたるまで、国中溢(あふ)れかえる「人民」の表現が、政府の人民に対するスローガンであることが明白になる。内政上では一党独裁、都市部と農村部や沿海部と内陸部との格差、経済成長率は9%とされながら海外への出稼ぎ、広大な国土でありながら低い居住可能面積などが、果てしない国家プロジェクトとして立ちはばかっている。外交政策上では、軍備の拡張と覇権主義が今後も論議されるだろう。多民族国家の弊害として、民族自決の気運が高まる可能性もある。台湾独立をなど低次元の課題でしかない。毎年800万ー1千万人も増加する人口をどう抑制するのか。高齢化が進む社会に「バリアフリー」の形が見えない…。真の人民共和国になるのは何時の日か。矛盾に満ちたこの巨大国家の存亡が気になってならない。

 短期間ながら、いろいろの人や人生に出会い、さまざまな事物を観察、わが国とわが家族の将来を案じた旅。一衣帯水、中国の諸問題は、即刻わが国の国内問題となるだろう。ならばわたしは、いやでも再び中国へ出掛け、わが目で両国の行く先を案じるしかあるまいと考えた。【了】

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