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PJ: 穂高 健一

東京の元旦風景、都心は静かに楽しめる
2006年01月02日 04:05 JST


獅子舞を怖がって、歯を食いしばる幼い子。1月1日、靖国神社にて (撮影:穂高健一) 

東京タワーの大展望台(高さ150メートル)では、正月元旦の6時48分の日の出を知らせるアナウンスが流れた。大勢の観客から、ため息と失望の声があがった。ご来光は予報通り厚い雲にはばまれていた。雲の切れ間からの太陽がでるかもしれないという、一縷の希望が断たれた瞬間だった。

 大展望台の観客は十代後半から二十代の若者が中心である。多摩市からきた女子大三年生(人文学部)2人は東京ドームのカウント・ダウンのあと、東京タワーに回ってきたという。ドームで騒いだけれど、まだ年が変わった実感は無かったらしい。足立区の大学四年生カップルは「六本木ヒルズの抽選に外れたし、明治神宮の初詣だけじゃつまんない」から、東京タワーに来たと語った。

大展望台からさらに高い特別展望台への入場は、先着80人。正面玄関で順番待ちのトップは江東区から来た建築資材の運搬業を営む藤原さん(48歳)だった。正月休みに入った12月29日夕方から並び、9年連続のトップで順番を取っていると教えてくれた。

 「並んだ初日は一人きりで、強い孤独感に襲われるし、寒さも身にこたえた」としみじみ語った。翌30日夕方になると、藤沢市からくる通称・二番手さんや、中央区の草間さんが現れたという。「話し相手が3人いれば、人間は辛いことでも、結構楽しくなるものだ」と明るく話していた。過去9回で、ご来光がはっきり見えたのは2回だけ。なぜ、そこまでして?と聞いてみた。

 「トップを貫く信念を大切にしたいし。それにいつも来年こそは、という期待がある」。藤原さんはこう語った。

 期待とは景気の上向きだという。「次の首相には消費税を上げない人を選んでほしい。運送賃は下がっているのに、税金を上げれば、結局は物価が高くなり、生活の負担になるから」と付け加えた。

 展望台の眼下に見えるのは増上寺である。徳川秀忠、家宣、家継、三人の将軍が眠る墓所がある。そこまで足を向けると、三人連れの三十代女性が線香をあげていた。皇女和宮などが合葬されていることから、歴史好きな女性には人気のある寺である。

 浄焚場の前で炎を凝視するのは、米国・テキサス州からきたウィリアムさん(48歳)だった。日本に来て5年半のビジネスマン。日本の正月について感想を聞いてみた。

 「日本では新年になると、みなニュー(新しいもの)になる。家の中の障子も、お飾りも、お守り、達磨も。この浄焚場で焼いてしまう。そして、神社仏閣で新しいものを買う。アメリカにはそういうニューの考えや風習はないです」。

 ウィリアムさんは、だるまなどもらえるものなら、焼かずにテキサスに持ち帰りたいという。別れ際、ライブドアの堀江貴文さんとは福岡市で、宇宙ビジネスのことでお会いました、とかるく手を振っていた。

 皇居前で、元旦ランニングしていたのが、大田区の丸山さん(27歳)である。父(64歳)と共に四人の子どもが肩を並べ、皇居の周囲約5キロを三周する。一周目の三宅坂から桜田門に下る坂道で、初日の出を見るのが恒例だという。今年は曇って見えなかったが、まったく気にしていない。今年は長野のフルマラソンで3時間15分のタイムを狙うという。神頼みの考えはなく、練習と努力のみという姿勢が感じられた。

 走るだけでなく、日本ウオーキング協会が主催する『元旦大江戸初歩き2006』の参加者(約500人)がお堀に沿っていく。Aコース(東京駅から上野公園11キロ)、Bコース(新宿から上野17キロ)、Cコース(神宮から上野9キロ)があり、そのうちAコースを選択していたのが大阪の寺西さん(41歳)である。夫人と小学5年生の息子さんを連れて参加していた。ウオーキング歴は6年。毎週土曜、日曜は必ず家族で出かけるという。

 遠くは北海道・網走から、沖縄の那覇まで歩破した。「家族で地方料理を美食することが、一番の楽しみ」と寺西さんは笑顔で語った。最も印象深いところを聞くと、夫人は開聞岳の指宿、息子さんは富山県・立山の山麓コースだったと答えてくれた。

 広大な二重橋前の広場だが、見渡しても50人ばかり。警察官がわずか数人。観光が自由化されつつある中国の、南京からきた38人の団体だけが目立つ。名古屋経由で、昨晩東京に入った、と語るのは朱さん(32歳)で、南京大学日本学科卒業していた。ここでの印象を聞いてみた。「皇居全体が公園のように整備されている。お城の屋根瓦が黒く、赤や金色の中国とはずいぶん違う」と語ってくれた。

 靖国神社は家族連れや若いグループが多かった。あえて若者を選んで、初詣に靖国神社を選んだ理由を聞いてみた。「テレビで騒がれてたし、コマーシャルもしてたから、靖国神社にきてみたの。想定外で、ふつうの神社だった」と横浜から来た17歳の私立女子高生が答えてくれた。

 連れあう16歳の同級生には、靖国神社はどういう神社なの、と聞いてみた。「戦争犯罪者を祀ってる。だから、中国が怒ってる。それに戦争で死んだひとも祀ってる」。戦犯の話がまっ先に出てきた。

 休憩所にいた男子専門学生(23歳)には、靖国神社の問題について、どう思うか、と聞いてみた。「小泉首相の参拝は、総理を辞めてから、靖国神社に来ればばいい。ただ、中国も被害者意識が強すぎる。恨みしかないとなると、両国は嫌な関係になってしまう。双方が過去に拘泥せず、もっと先をみて進んでほしい」と語ってくれた。

 上野東照宮のぼたん園は1月1日から開園していた。周囲にある動物園、博物館、美術館、文化会館すべてが元旦休み。ぼたん園はさぞかし混んでいるだろうと予想してきたが、入園者は限りなくゼロに近かった。今年は寒波の影響でボタンの咲きがやや遅いようだ。あと10日ほど経てば見ごろになる、と受け付けの巫女が教えてくれた。

 4月中旬の春ぼたんの季節になると、園内で押し合うほど混みあう。いまは静寂な雰囲気のなかで、三角形の藁ぼっちを被った、咲きはじめた質素な寒牡丹が楽しめた。

 元旦の都心は想定外の発見があるし、ゆっくり愉しめる好機である。【了】



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PJ 記者