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PJ: 穂高 健一

稲越功一は写真展「心の目」を前に死去。有名人の写真は一枚もなかった
2009年08月24日 10:08 JST


華やかなコマーシャル写真家の写真展とは思えない。同展の入口から一望すれば、モノクローム(白黒)写真が壁面に横一直線にならぶ。カラー写真は見えない。(撮影:滝アヤ、8月19日、東京) 

【PJニュース 2009年8月24日】写真展『心の目 稲越功一の写真』が、東京・目黒区の東京都写真美術館・地下一階展示室で開催された。稲越功一といえば、数多くの有名人の写真集に携わってきた人物だ。

ところが、同展の入り口から一望すれば、モノクローム(白黒)写真が壁面に横一直線にならぶ。カラー写真は見えない。そのうえ、演出物は皆無だ。華やかなコマーシャル写真家の写真展とはとても思えない。対極にある、日常生活の原風景ばかり。開催は10月12日まで。

稲越さんは今年2月25日に肺がんで亡くなった。「昨年秋から、稲越さんがこの企画に精力をつぎ込んでいました。展示124点は自ら選んだもの。(内、11点は同館学芸員が追加)。生前に希望していた通りの、忠実な展示しました。ここ十数年、当館として、こんなシンプルな写真展は記憶にありません」と、金子隆一さん(同館・専門調査員)は語る。

個々の写真にはキャプション(説明)などない。素朴な、なにげない日常光景ばかり。有名人の写真などは一切なく、被写体への雑念が入らない。演出物もなく、目移りするものがない。稲越功一さんの写真に一枚ずつ対峙(たいじ)するのみ。

同展はまず『Maybe、maybe(1971)』からはじまる。渡米中の稲越さんが撮影した、アメリカ国民の素朴な日常生活の断面だ。個人的な目で、米国社会を見て、切り取っている。

『meet again(1973)』では、アメリカTVの映像を切り取った写真がある。ブラウン管の線が走っている。「稲越さんは、当時とすれば、時代遅れのメディア(写真)と、最新のTVと合体させる時代の感覚を持ち主でした。ラジカルに表現されています。それゆえに、最初から成熟した眼(まな)差しを持っている写真家だ、といわれました」と金子さんは語る。

『記憶都市(1987)』は80年代の、東京下町の片隅の風景である。世の中はバブルに沸きたち、あと1ヵ月、1週間で、世から消えそうな風景。細い路地裏の平屋の家々だったり、風呂屋の煙突だったり、崩れかけた古い工場跡だったり。それをソフト・フォーカスで、リアルに写し撮っている。

「稲越さんの場合は、都市の記録写真ではない。もうすぐ世から無くなる危機感。そこに何があったのだろう、という、記憶を先取りするものです」と金子さんは説明する。記録でなく、記憶の撮影を確保する。それが記憶都市というサブタイトルになっている。

『Ailleurs(1993'>1993)』は主として海外の写真だ。日常生活の人々、素朴な物、雑草などが切り取られている。モノクロームのソフト・フォーカスで、幻想と現実を渡り歩くものだ。『Out of Season(1993'>1993)』となると、一部にはカラー写真も入っている。決して色鮮やかなものではない。朽ちボートに鳥が止まっている。J.F.ケネディー大統領の数十年前の風化したポスター。質素な女像。一つひとつがクリアな風景で、素朴な生活感があふれている。

『まだ見ぬ中国(2008)』、『芭蕉景(2009)』に関しては、同館の学芸員が追加したもの。稲越さんの新しさと古さとの感性が揺れ動いている。

妻の稲越敬さんから、話しを聞くことができた。「自費出版の『meet again』をもらったとき、この方は才能を秘めている、と思いました。私は、稲越ファンの第一号でした。夫はつねに全力投球で、撮りつづけてきました。(死去前)退院後は、この写真展の打ち合わせをする、といい続けていました。過去の夫の写真展になく、仕掛けもない、シンプルなものです。まさに夫の「心の目」です」と語ってくれた。

稲越さんといえば、大スターや著名人たちを撮りつづけた、コマーシャル写真家だ。その実、彼は心のなかで、その名声を嫌っていたのではないだろうか。
1969年に渡米した以降、あるいは名声を託してからも、彼はプライベートで純粋に、国内外で庶民生活の片隅を切り取りつづけてきた。生前最後に、彼が選んだ自作品の写真展をみるかぎり、写真家を超えた、庶民派の芸術家だった、と読み取ることができる。【了】

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東京都写真美術館・「心の目 稲越功一の写真」



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PJ 記者