SakuraFinancialNews

Updated: Apr 23 00:41    

HOME > (159) > 第53回農民文学賞(下)「曼珠沙華」...

PJ: 伊藤 昭一

第53回農民文学賞(下)「曼珠沙華」で、老いと不条理の重奏を描いた鶴岡さん
2010年05月06日 06:24 JST


第53回農民文学賞の贈呈式で木村芳夫日本農民文学会会長(左)から賞状を受け取る鶴岡一生さん。東京・飯田橋レインボービルにて(撮影:4月29日、伊藤昭一) 

【PJニュース 2010年5月6日】(上)のつづき。第53回農民文学賞を受賞の鶴岡一生さんの小説「曼珠沙華」は、山里で独り暮らしをする老人の生活を描いたもの。

作品は、外面的な描写を中心に、山の老人が次第に自分の内面に入り込み、認知症の様相をみせる。そのなかで、かつて孫を町に連れて行ったことがあり、その折に見知らぬ男が事件を起こし、孫の命が奪われた不条理な過去が浮き出る。孫と渓流釣りをした輝ける時の記憶と、町へ連れて行ったことへの自責の念。犯人への憎悪を抱く老人。その精神は不条理な復讐心を沈潜させている。技巧力の求められる表現に、果敢に挑戦した意欲作。

直木賞作家・伊藤桂一氏は「これはまさに山の文学として、新鮮な味があり、特に老人を大切にしている気分が全編に流れており、周囲の息子たちの老人に対する姿勢や孫の話など、人間に対する愛情が感じられる」と評価した。

また、文芸評論家の秋山駿氏は、体調の都合で贈呈式には出席しなかったが作品評を寄稿。「実にしっかりとした『描写』があった。これは、最近の文芸誌をにぎやかにしている新鋭の作品にもあまり見られぬもので、わたしは大いに感心した。冒頭は、老人が一人で山を登って行くところだが、その歩みとともに『(トガの大木の)太った幹の弾けた樹皮の裂け目から幾本もの枝を養って縦横に広がったその姿』やその根株から見下ろすと、平地から眺める山々のそれとは違って、『ひと山ひと山がむくむくと盛り上がって互いを押し合い圧し合いししていた』という光景が、次々に現れて、これが小説描写というものだ」と賞賛を送る。

鶴岡一生さんは、出身は大阪で、早稲田大学社会科学部中退。早稲田文学新人賞佳作の文学歴がある。現在は長野県上田市で農業、炭焼きに従事し「武石炭人会」代表でもある。受賞のことばも炭焼きの話から入る。

「幾日も山に入って木を伐採し、玉に刻み、斧を入れ、さまざま苦労をして、ようやくのこと準備が整い、さあこれからだというとき、『この先、何窯も焼かなければ、良いものは出ない』と炭焼きの師匠は言った。じゅうぶんに窯が温まらなければ、ほんとうに良い炭は焼けないということらしい。それまでは、良い炭にはならないのを承知で何窯も焼きつづけなければいけない。ずいぶんと遠回りをするものだと思った。事実、そうするより道がないのだから。覚悟をきめるほかない」とする。

さらに「地に足のついた小説を書きたいと思って、信州の山奥に家族ともども越してきて4年。理想とするよい小説にはまだ遠いですが、このたび、賞をいただけましたことには、大変勇気づけられました」と語った。

日本農民文学会・木村芳夫会長は「農民文学賞の受賞者の多くは、その後に地域のなんらかのリーダーとして活動をしている。この作品には、作者の人生が投影されている」と、その人生観と文才に大きな期待を寄せていた。【了】

■関連情報
PJニュースは一般市民からパブリック・ジャーナリスト(PJ:市民記者)を募り、市民主体型のジャーナリズムを目指すパブリック・メディアです。身近な話題から政治論議までニュースやオピニオンを幅広く提供しています。

PJ募集中!みなさんもPJに登録して身の丈にあったニュースや多くの人に伝えたいオピニオンをパブリックに伝えてみませんか。



関連記事:
タグ:
pagetop

PJ 記者